今日は午前が外来で午後が手術でした。
手術の申し込みは眼内レンズ偏位のレンズ摘出・強膜内固定と眼瞼下垂が1人ずつでした。手術は白内障6件、黄斑上膜の硝子体手術1人、眼瞼下垂1人、ICL(Phakic IOL)1人でした。
白内障手術の経過でレンズがズレてきてしまうのが『眼内レンズ偏位』で、合併症の一つとされています。普通に全く問題なく手術をしても将来的に自然経過でも起こり得ることなので、『合併症』と言うのはちょっとおかしい気もしますが、いずれにせよ、レンズがズレてきてしまうと、再度、手術をしなければなりません。単にレンズがズレてくる訳ではなく、レンズは水晶体嚢という袋状の組織に入って眼の中に収まっていますが、水晶体嚢の周りにはチン小帯という線維があり眼の中に固定されています。このチン小帯が弱くなってくると、水晶体嚢ごとレンズがズレて眼内レンズ偏位を起こすという訳です。ですので、手術では、水晶体嚢ごとレンズを取り除き(レンズ摘出)、新たなレンズを眼の中に入れます。レンズを入れるといっても、水晶体嚢がない状態なので、レンズをなんらかの方法で眼の中に固定せねばなりません。その固定の方法は2種類あり、以前、主流だったのがレンズの支え(支持部)を糸でしばり、その糸のついた針を眼の中から眼の壁(強膜)から眼の外に出し縫つける『縫着術』と最近、主流の方法で、レンズの指示部を強膜に埋め込んで固定する『強膜内固定』という方法があります。縫着術は歴史も長く、基本的に硝子体処理が必要なく、眼の前の方の操作のみになりますが、糸の扱いが煩雑だったり、レンズの位置調整が難しかったりという弱い点もあります。強膜内固定は基本的には硝子体手術をする必要がありますが、手技がシンプルでレンズの安定性もよいので、僕はこの方法で行っています。
この患者さまは40代の方で若い時に両眼の白内障手術をされていて、もう片方の眼は去年の9月に強膜内固定を行っています。若い方の眼内レンズ偏位はアトピーが原因のことが多いのですが、この方はアトピーが強くはなく(子どもの頃少しあったそうです)、原因ははっきりしませんが、白内障も若くして出ていたようなので、『水晶体の弱さ』のようなものがあったのかもしれません。ちなみに、レンズがズレてくると、ピントが合わなくなるので見えにくくなります。ズレが少ないと、見えたり見えにくかったり変動することもありますが、大きくズレてしまったり、眼の奥に落ちてしまう(レンズ落下)と、かなりピントが合わないぼやけた見え方になります。レンズ落下してしまうと、手術がちょっと大変なので、白内障手術の後、もしレンズがズレているように感じたら、なるべく早めに受診するとよいかと思います。
白内障手術の後には、今回のレンズ偏位のように合併症という訳でなくとも、自然経過で見えにくさが出ることもあります。他には、水晶体の袋(水晶体嚢)の後面(後嚢)が濁る『後発白内障』もこの経過の一つになるかと思います。後発白内障は少しずつかすみが強くなって、『また白内障が出てきた?』なんて感じていらっしゃる方が多く、これは簡単なレーザー治療(YAGレーザー)ですぐ治りますし、急ぎで受診しなくても大丈夫です。
↑眼内レンズが下方にズレてしまっています。