今日は午前のみの外来でした。
手術の申し込みは、白内障1人、眼瞼下垂1人と霰粒腫1人(5歳女の子)でした。
昨日、白内障の手術をした患者さまで、ピントは狙い通り−2D(50cm程度の近視)で近方30cm視力1.0と予定通りの結果が得られたのに、浮かない顔をされていました。
術前の説明時に、レンティスコンフォートを使って2mくらいから50cmくらいを見えるようにしたいと希望があり、同意書のピント確認欄は遠方〜中間にチェックを入れました。
ところが、手術の1週間前に『同意書のピントが遠方〜中間になっているが、合っているのか?中間〜近くでないのか?』と問い合わせがあり、スタッフが話を聞くと『遠方は眼鏡を掛ければよいけれど、手元は裸眼で見たい』という患者さまからのご希望を確認し、そうであれば、確かにピントとしては“中間〜近方”なるので、レンズの度数を変更させていただきました。
しかし、患者さまは距離にすると当初の2m〜50cmが本当の希望だったらしく、“思ったような見え方でなくてがっかり”と感じたようです。
僕自身ももっとご本人と確認をすべきだったと反省していますが、今回の件はトラブル防止のための同意書が、却ってトラブルを招いてしまったように思います。
同意書にはピントの選択肢として、遠方、中間、近方という言葉が並びますが、時々、この距離の選択肢が僕らと患者さまで認識のズレがあるように思います。
“遠方”というと、どれくらいの距離をイメージしますか?“近方”はどうでしょうか?
僕らの言う遠方は厳密には5m以上ですが、白内障手術で眼内レンズを選ぶ場合には2mより先は遠方と考えています。
白内障の手術では、ピントの距離を眼内レンズ度数計算検査のデータから選びます。これは『この度数のレンズを使うと、術後にこれくらいの近視になります』という“予想値”が並ぶようなデータになります。しっかり遠方に合わせるならゼロD、2mに合わせるなら-0.5D、1mに合わせるなら-1Dという値に近くなるようなレンズ度数を選ぶ必要があります。遠方に合わせる時も、遠視側(プラス側)にズレると見えにくくなってしまうので、少し余裕を持ってマイナス側でレンズを選びますので、ゼロ〜-0.5Dの間になるようなレンズを選ぶことが多く、2mも“ほぼ遠く”と考えらる訳です。
ちなみに、近くは30cm程度の手元がよく見える距離をいうことが一般的ですが、近方は人により希望する距離が異なり、30cmで-3D、40cmで-2.5D、50cmで-2Dとより細かく設定する必要があります。
また、”中間“は遠方と近方の間を指す言葉ですが、一般的には1mを指すことが多いです。ただ、微調整はできますので、遠方よりの中間や近方よりの中間を設定することも可能です。
遠方、中間、近方は便利な言葉でありますが、曖昧な表現でもあるため、誤解を防ぐためには、より具体的な見え方の希望を伝えることが大切だと思います。
例えば、
・ゴルフで打ったボールをしっかり見たい
・裸眼でなんとか車の運転ができるくらいにしたい
・自室のテレビを1mくらいの距離で見たい
・デスクトップのパソコン作業を楽にしたい
・ピアノの楽譜を楽に見たい
・読書は裸眼でしたい
といったように具体的な事例や距離を話していただけるとより伝わりやすいかと思います。
部屋のテレビの距離もご家庭で違いますし、パソコンもデスクトップとノート型で適正距離が異なります。
楽譜も例えば、ピアノ、バイオリン、チェロなど楽器によって見やすい距離が変わるようです。
こういったことも具体的に伝えるとよいかと思います。
せっかく、水晶体の濁りを取り除いて、きれいなレンズを入れても、ピントの位置の誤解で思ったような見え方にならないのはとてももったいないと思います。
手術を受ける患者さまには、見たい距離、したいことをしっかり医師に伝えて自分に合ったピントの位置を得て欲しいなと思います。
ちなみに、今回の患者さまは来週、もう反対の眼を当初の希望の度数に合わせてみて、その後、両眼で見て大丈夫ならそのまま、やはり不自由が強ければ、レンズの入れ換えを予定したいと思います。
今週も皆さま、お疲れ様でしたm(_ _)m