今日は一日外来で、手術の申し込みは、白内障5人、眼瞼下垂3人、霰粒腫1人(2歳女の子)、硝子体手術2人でした。
今日の外来では、他院で1週間前に白内障の手術を受けて、『水晶体が弱くてレンズが入れられなくて、見えない』という80代の女性の方がいらっしゃいました。
白内障の手術では、様々な理由で一度でレンズが入れられないことはあります。特に、水晶体の支え(チン小帯)が弱いと、水晶体嚢が残せず、眼内レンズを強膜内固定という方法でレンズを入れなければならず、それ用のレンズを準備する必要があるため、後日、改めてレンズを入れる手術を行うようになります(当院の場合)。
この患者さまの場合、水晶体の濁りを超音波で取り除く際に、水晶体嚢が破れ、一度、眼内レンズを入れたものの、うまく入らず、取り出し、眼内レンズは入らない状態で手術を終えたようでした。
『見えるようになりますか?』と聞かれましたが、単に眼内レンズが入っていないだけであれば、眼内レンズを入れてあげれば、見えるようにできる可能性が十分あります。しかし、この患者さまの場合、レンズを使い矯正しても、視力は0.03しか出ず、これは角膜が白く浮腫んで濁ってしまっている“角膜障害”が原因でした。角膜は内側に一層の“角膜内皮細胞”が存在し、この細胞の働きで角膜の透明性が保たれています。手術の際、炎症や物理的刺激などによる侵襲で角膜の細胞は機能が一時的に弱くなったり、細胞の数が減ってしまうこともあります。角膜内皮細胞は実際の数ではなく、密度で評価しますが、通常は2500〜3000個/㎟くらいの細胞があり、白内障手術を受けると1割程度減るとされています。角膜内皮細胞は多少減っても問題ありませんが、500を切ると、角膜の透明を保てなくなり、角膜が濁ってしまう“水疱性角膜症”という状態に陥ってしまいます。角膜内皮細胞は再生しないので、減ることはあっても増えることはなく、水疱性角膜症の状態になってしまうと、点眼や内服で根本的に改善させることはできず、治療をするならば角膜移植をすることになってしまいます。
それで、この患者さまのケースですが、『術直後は一時的な機能低下が原因で可逆的な角膜障害が起こっていることもよくあり、今より改善する可能性は十分あると思います。ただ、現時点では待っていれば、必ず角膜はきれいになりますとは言えず、もし角膜がきれいになってくれれば、改めてレンズを入れる手術を予定すれば見えるようになりますし、もし角膜がよくならない場合は、見え方をよくしたいのであれば、角膜の手術を考えなければならないかもしれません。いずれにせよ、今すぐに何か追加の治療が必要な訳ではなく、しばらくは術後の点眼を使いながら、角膜の状態がよくなるか見極めるようになります。』とお話しさせていただきました。
手術で想定外のことが起こると、眼に負担がかかってしまい、術後に予想もしなかった見えにくい状態になってしまうこともあります。僕らもそうならないように最善を尽くしていたとしても、残念ながら不可避なこともあります。そんな時、患者さまは大きな不安を抱えてしまうこともあると思いますが、待つ時は待ち、落ち着いた時に次の治療が必要であれば、考えたらよいと思います。