今日は午前は外来、午後は手術で、眼瞼下垂2人、眼瞼腫瘍1人、霰粒腫4人(1歳男の子、6歳女の子、7歳女の子、19歳女性)でした。
昨日の手術では、90代の男性のかなり進行した右眼の白内障の手術がありました。この方の手術はすべきかどうか、とても悩みました。その理由は単に年齢が高齢だからということではなく、元々、見えにくかったということと、角膜の細胞(角膜内皮細胞)が500程度とかなり少なくなっていたからです。角膜内皮細胞は角膜の水分を適度に保つポンプのような働きをしていますが、角膜内皮細胞が減ってしまうと、ポンプ機能が低下し角膜内に水が溜まって浮腫んで濁ってしまう“水疱性角膜症”という状態に陥ってしまいます。厄介なことに、角膜内皮細胞は一旦減ってしまうと再生しないため、水疱性角膜症になってしまうと、改善させるには角膜移植が必要になってしまします。角膜内皮細胞の密度は1㎟あたり2500〜3000個ですが、500を切ると、水疱性角膜症を発症するとされ、この患者さまも既に軽く水疱性角膜症を起こしている状態でした。白内障の手術を受けると、角膜内皮細胞は1割程度減るとされていますので、500程度の角膜内皮細胞数で手術を受けることは、水疱性角膜症を発症してしまうリスクが高いと考えざるを得ません。白内障手術をしないでこのまま過ごすのも選択肢の一つだったと思いますが、白内障が進行すれば今より見なくなってしまいます。しかし、その時にやっぱり白内障手術をしたいと思ったとしても、白内障が進行すればするほど、眼に対する手術侵襲は大きくなるため、もし手術を受けるなら、先延ばしにするべきではありません。このまま悪くなるのを待つのか、水疱性角膜症が進行して見えにくさが出てしまうかもしれませんが、少しでもよくするために白内障を取るか、どっちが正解ということではない問題ですが、患者さまは手術を受け、白内障を取ることで少しでもよくしたいという選択をされました。手術を受ける選択をされたなら、あとは僕は少しでも角膜の細胞を守り、眼に負担をかけないように心掛けて精一杯の手術をさせていただきました。
とはいっても、どれだけ角膜の細胞が残ってくれるかは、分からないため、今日の診察は不安な気持ちもありましたが、眼圧が高めで角膜の浮腫みがあったものの、『前より見えるようになった』と言っていただけ、少しほっとしました。眼圧が下がれば、もう少し見え方は改善してくれそうですし、何より、患者さまが手術を受けて満足そうなお顔をしてくださったので、よかったと思います。