院長ブログ

意思疎通の取れない方の手術

今日は午前は外来、午後は手術でした。
手術の申し込みは、白内障3人で、今日の手術は、眼瞼下垂2人、霰粒腫2人(12歳女の子、13歳女の子)でした。

昨日の白内障手術を受けていただいた80代の男性の方は認知症がひどく、ほとんど意思疎通の取れないような状況の方でした。ご本人は自ら見えにくいと症状を伝えられるようではなかったようですが、ご家族が『どうも見え方がよくないようだ』とご心配され、診察に連れてきてくださり、視力検査もできませんでしたが、確かにある程度、濁りの強くなった白内障があり、手術することで見え方はよくなる可能性は十分ありました。ただ、それがご本人にとってどれだけプラスになるか、ADLが上がるかはなんとも言えず、せっかく手術しても何も変わらない可能性があることもお伝えした上で、それでも、少しでもよくなる可能性があるのであれば、手術を受けさせたいというご家族の希望で手術をすることになりました。

限られた国の医療費を使って行う保険診療で、よくなるかどうか分からないようなケースで手術をするのはよくないという考えもあるかもしれません。でも、逆に、よくなる可能性もある訳ですし、ご本人もご家族もずっと保険料をまじめに支払ってきたのですから、効果があるかどうかは気にすることなく、病気として適応がある治療であれば、受ける権利は当然あると思います。本人に手術の効果が出てくれれば、一番ですが、もし仮に改善が無かったとしても、白内障はずっと放っておけば、少しずつは見えにくくなり、結局、どこかのタイミングで手術をすることになり、今、手術することも決して無駄ではなかったと思います。それに、介護するご家族が“できることは全てした”と思えることも、大事なことだと思います。認知症になると、どうしても少しずつ色んなところが弱くなっていきますが、『あの時、ああしておけばよかった』とか『あの治療を受けていればもっと元気だったかもしれない』と思うのと、『できることはした』と思えるのとでは受け入れが違うのではと思います。本人の意思のない治療は、ある意味自己満足と言われてしまうこともあるかもしれませんが、患者さんのことを本当によく考えて決めた治療であれば、決してそんなことはないと思いますし、個人的には仮に自己満足だっていいんじゃないかと思います。自分たちが満足というか、納得していられることで、介護をして支えて暮らしていく支えになると思います。だから、僕も手術を引き受けようと思いました。

手術自体は全く問題なく終わりましたし、術後の経過自体は良好ですが、この手術が少しでも患者さんによい効果をもたらしてくれるといいなと思います。

 

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