今日は一日外来で、手術の申し込みは、白内障8人、眼瞼下垂2人、霰粒腫3人(3歳女の子、5歳男の子、22歳女性)、硝子体手術2人(黄斑上膜、硝子体出血)、眼内レンズ交換1人でした。
今日の白内障術後の相談の方は、他院で1月に右眼の多焦点レンズ(パンオプティクス)を使った白内障の手術を受けた60代の女性の方で、近方が見えにくく家事がしにくく困ってしまっていらっしゃいました。元々、強度近視で、担当の先生からは単焦点レンズの近方合わせを勧められたそうですが、裸眼での生活に憧れ、多焦点レンズを希望されたそうです。手術は問題なく終わり、術後の視力も遠方1.2、中間近方0.7と検査や所見上は経過良好でしたが、それでも見えにくく、『単焦点に入れ換えるのはどうか?』と聞いたことこ、担当の先生から『突拍子もないことを言うな』と言われてしまったそうです。その先生からすれば、検査や所見上の経過は全然悪くないし、入れ換えといっても簡単な話ではなく、入れ換え手術でのリスク、水晶体嚢がキズついてしまったり、乱視が強く出てしまったり、入れ換えることでよくないことが起こる可能性や、そもそも、単焦点にすれば確実によくなるという保証もない中で、そんな簡単に入れ換えるのはどうかなんて言わないで欲しいということだったと思いますし、患者さんのことを考えて入れ換えない方がその人のためになると思ってのことだったと思います。ただ、患者さんの辛さは切実なものであり、誰しもが好き好んで2回も手術を受けたいなんて思わないでしょうから、入れ換えたいという気持ちもまた簡単に口に出したものでもなく、思い切って伝えたのではと思います。
白内障の手術で一度入れたレンズで過ごしていけることは一番であるとは思いますが、必ずそうしないといけないこともないと思います。例えば、仕事だって、新卒で入った会社でずっと定年まで働ければそれに越したことはないかもしれませんが、それが必ずしも幸せとは限らないこともあります。結婚生活なんかもそうだと思いますし、今や性別だって、男に生まれたけれど、女性として生きていきたいということが受け入れられつつある時代です。一度、決めたこと、決められたことが、受け入れられない場合、変えようとすることは、決して悪いことではなく、そうしたいと思うことは、自然なことであると思います。
レンズを入れ換えたいと言われると、確かに突拍子もないことと思ってしまうこともなくはないですが、本当は入れ換えたいのに、我慢して言わずに、タイミングが遅くなってから言われるよりは、気持ちとして、伝えていただく方がありがたいように思います。もちろん、実際に入れ換えるかどうかはまた別の話で、入れ換えればよくなるかどうか、入れ換えるならすぐすべきなのかもう少し待った方がよいのか、入れ換えができそうか難しそうかはこちらから話す必要がありますし、あとは再手術のリスクを理解した上で、費用の負担をしてまで入れ換えたいかをしっかり考えていただき、やっぱり入れ換えたいという気持ちが強ければ、入れ換えの手術をしたらよいと思います。
あと、今回の患者さんもご理解いただいていましたが、前の先生の手術はとてもきれいで素晴らしい経過だったと思いますし、手術までのプロセスも何度もレンズのことを話し合われ、全く問題がなく、前の先生の診療が決して悪いことはなく、むしろ丁寧で完璧なご対応だったと思います。それでもこういうことが起こってしまうのが、白内障の手術の難しさで、術後の見え方はあくまでも想像、イメージすることまでしかできずに、手術を受けなければならない以上、どうしても起こり得ることだと思っています。でも、もしそうなってしまったとしても、それを改善できる手段が無いこともないので、終わった過去のことを悔やんだり、悲観しすぎずに、何をすべきかをよく考えて前を向くことが何よりも大事なことだと僕は思います。
白内障の術後の不具合でご相談くださる方も多いですが、僕の考えを知っていただけるとありがたいと思います。よろしくお願いいたします。