院長ブログ

白内障手術で乱視も治せる!トーリック眼内レンズ

患者さん;『白内障の手術を受けたのにちょっとよく見えなくて、、、』
医師;『それは乱視があるから仕方ないですね、、、』
 
ひと昔前まではよく交わされていた患者さんと医師との会話です。
 
乱視というのは眼のレンズの非対称性などから焦点がうまく1点に結ばず、物がブレて見えてしまう状態です。
乱視は眼のレンズが関わってきますので、その原因としては、まず眼の表面(角膜)によるものがあります。角膜のカーブがまん丸でなく、いびつなことで乱視が生じます。ボールでイメージすると、サッカーボールやテニスボールのように球形だと、どの方向でも1か所に焦点が結ばれますが、ラグビーボールのような楕円形ですと、その長軸方向と単軸方向で焦点の不一致が起こり、そのために物がブレて見えてしまいます。
もう一つ関係してくるのが、眼のレンズの役割を担う水晶体です。
この水晶体は元々は均一なつくりをしていますが、年齢による変化などで水晶体の濁り(=白内障)が出てくると、光を曲げる働きが不均一になり、これによっても乱視が出てくることがあります。
つまり、乱視は角膜によるものと水晶体によるものがあり、角膜だけ、水晶体だけによる乱視の方もいればその両方による乱視の方もいらっしゃいます。
 
そしてようやく白内障と乱視の関係です。
白内障の手術は濁った水晶体を取り出して、きれいな人工のレンズ(眼内レンズ)を眼に入れる手術です。
水晶体による乱視だけの方は白内障手術で水晶体を取って、普通の眼内レンズを入れるだけで、乱視もよくなってしまいます。
一方、角膜に乱視がある方は、水晶体を取り出して、普通の眼内レンズを入れただけでは、乱視による見えにくさは残ってしまいます。そのため、眼内レンズに乱視を打ち消す成分を入れた『トーリック眼内レンズ』というレンズを使う必要があります。
このトーリック眼内レンズを使うことで、白内障の濁りによる見えにくさだけでなく、乱視による見えにくさまでも白内障の手術でよくすることが可能な訳です。
 
 
時々、角膜の乱視と水晶体の乱視があっても、それぞれが打ち消し合う方向の乱視で、眼全体としては乱視がない(乱視を感じない)方もいらっしゃいます。この場合、白内障の手術で普通の眼内レンズを入れてしまうと、角膜の乱視が残り、それまで無かった乱視の見えにくさが手術の後に出てしまい、『明るくなったけれどなんかはっきり見えない』なんて困ったことにもなりかねず、注意が必要です。
もしかすると、白内障の手術の事前説明の時に『乱視を治すレンズを使いますね』と先生から言われ、『えっ、私、乱視なんてないのに』と感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、それは手術される先生がちゃんとよくみてくれ、術後に乱視で困らないように考えてくれたからという訳です。
 
『白内障の手術で乱視が治せます』と言ったものの、必ず乱視がゼロになる訳ではありません。それは、手術の時に作る切開創で乱視が変化したり、トーリック眼内レンズの度数も段階的にしかなく、なかなか乱視をゼロにすることは難しいですし、ごく軽い乱視があった方が焦点の幅が広がり見やすいと感じることもあり、まったくゼロにしなければいけない訳ではないからです。
トーリック眼内レンズは1990年代に開発され、徐々にその仕様も増えてきました。
しかし、必ず乱視をゼロにできる訳ではないからという考えや乱視は眼鏡で矯正すればよいと考え、トーリック眼内レンズは使わない施設もあります。
日本白内障屈折矯正手術学会(白内障手術の学会)の調査では国内のトーリック眼内レンズの使用頻度は約5%でしたが、2019年の当院のデータでは26%で、約4人に1人はトーリック眼内レンズを使っていました。
 
トーリック眼内レンズは手術に少しだけ手間がプラスされたり、レンズ費用が高かったりしますが(単焦点の場合、保険点数が一律なので病院の負担だけ増えますが)、せっかく受ける白内障の手術ですので、手術の後に裸眼で少しでも見やすくなったと感じていただきたいというのが僕の願いです。そのためよりよい術後の見え方を目指し、乱視の影響にも極力注意を払って手術を行なっております。
 
白内障が出始める50代以降の方で乱視による見えにくさにお困りの方は乱視の矯正目的も兼ねて白内障の手術を考えてもよいかもしれません。気になる方は是非、一度、ご相談ください。
 
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