加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症などの病気では、血管内皮増殖因子(VEGF)というホルモンが産生され、網膜の中心部の黄斑部に出血や浮腫を引き起こして、視力の低下をきたしてしまうことがあります。これらの病気に有効な治療が、VEGFを抑える薬を眼の奥の硝子体に注射する『抗VEGE薬硝子体注射』です。
眼に注射というと確かに恐怖心や不安感があると思いますが、点眼で眼の表面を麻酔し、角膜の縁3〜4mmの位置から細い針で薬剤を眼の中に注入し、数分で痛みもほとんどなく終わります。眼の周りの消毒の準備などを入れても10分くらいで処置は完了です。
ただ、短時間で済む治療ですが、合併症もあります。針の刺し方によって、水晶体を傷つけてしまうと白内障の進行、網膜を傷つけると眼内の出血や網膜剥離を起こすこともあります。しかし、これは手技を注意することで、十分防ぐことができ、ほとんど問題になることはありません。一番、心配しなければならないのは感染症(眼内炎)です。まぶたや結膜など眼の表面は元々、全くきれいと言う訳ではなく、常在細菌が存在しています。この細菌は眼の表面にいる分には問題となることはほとんどないのですが、硝子体注射をする時、針を刺すのと一緒に眼の中に細菌を入れてしまう可能性があります。ただ、これは注射の前後数日、抗菌薬点眼をしっかりすることと、処置の際の消毒で十分防ぐことが可能です。もし万が一、眼内炎が起きてしまった時は、視力の低下、充血、眼脂(めやに)、眼の痛みなどが症状になりますので、このような症状が出た場合は、早めに受診することが大切です。
それから、もう一つ、注意しなければならないのは、全身への影響です。抗VEGF薬は血管新生を抑える働きがあり、眼の注射でも他の体の部位にも拡がり、脳や心臓の血管に作用してしまうと、脳卒中や虚血性心疾患を引き起こす可能性があるとされています。特に、高齢者の方や脳や心臓に病気のある方は硝子体注射をするか慎重に決め、もしする場合は、注射後の体調変化(手足の痺れ、麻痺症状、意識障害、胸痛、呼吸苦など)には十分気をつける必要があります。
いくつか気をつける点はありますが、十分安全に行え、有効な治療ですので、適応のある方は前向きに考えるとよいと思います。
ちなみに、“眼に注射”で今、一番多いのが、この硝子体注射ですが、結膜の下の更に下にあるテノン嚢の下に薬を入れる“テノン嚢下注射”や炎症を抑えるステロイド薬などを結膜の下に注射する“結膜下注射“といった眼に行う注射もあります。